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カンパニー制まるわかりFAQ:転職前に知るべき組織の仕組み、メリット・デメリット、キャリアへの影響


戦略的なキャリアを構築する上で、企業の事業戦略や財務状況を分析することはもはや常識です。しかし、もう一つ、見過ごされがちでありながら、個人の働き方、権限、評価、そしてキャリアの可能性そのものを規定する極めて重要な要素があります。それが「組織構造」です。組織構造は、企業の「OS(オペレーティングシステム)」とも言え、情報がどう流れ、意思決定がどこで行われ、誰が真の力を持つのかを決定づけています。

特に、多角化を進める大企業で多く採用される「カンパニー制」は、転職希望者にとって、その企業の文化や働きがいを判断する上で重要な鍵となります。カンパニー制を導入している企業は、単に「事業部」という名称を「カンパニー」に変えただけなのか、それとも真に権限を委譲し、独立した経営を促しているのか。その実態を見極めることは、入社後のミスマッチを防ぎ、自身の能力を最大限に発揮できる環境を選ぶ上で不可欠です。

この記事では、コンサルティング業界や事業会社の経営企画を目指すような、戦略的視点を持つ転職希望者のために作成されました。カンパニー制の基本的な定義から、事業部制や持株会社制との本質的な違い、そしてキャリアに与える具体的な影響までを深く掘り下げます。あなたが次のキャリアステージを評価する際、単なる職務内容を超えて、自身が活躍する「舞台の構造」そのものを見抜くための分析ツールを提供します。

    目次

  1. 「カンパニー制」とは、簡単に言うとどのような制度ですか?
  2. カンパニー制は、権限や会計の独立性において、具体的にどのように運営されるのですか?
  3. 大企業がカンパニー制を導入する主な戦略的理由は何ですか?
  4. 「カンパニー制」と「事業部制」の決定的な違いは何ですか?
  5. 「カンパニー制」と「持株会社(ホールディングス)制」はどう違うのですか?
  6. どのような状況で、どの組織構造が最も適していると判断できますか?
  7. 従業員の視点から見て、カンパニー制の組織で働くことの最も大きなメリットは何ですか?
  8. 転職希望者が注意すべき、カンパニー制の潜在的なデメリットやリスクは何ですか?
  9. カンパニー制の組織で働くことは、長期的なキャリアパスにどう影響しますか?(専門家 vs. ゼネラリスト)
  10. カンパニー制における業績評価や処遇は、一般的にどのように扱われますか?確認すべき点は何ですか?
  11. 同じ企業内で、カンパニー間の異動やキャリアチェンジの機会は現実的に期待できますか?
  12. 面接で、その企業のカンパニー制の実態を見極めるために、どのような具体的な質問をすべきですか?
  13. 【ケーススタディ】トヨタ自動車、みずほフィナンシャルグループ、楽天グループは、カンパニー制をどのように活用していますか?
  14. 【ケーススタディ】日本で最初にカンパニー制を導入したソニーが、最終的にそれを廃止したのはなぜですか?この事例から何を学べますか?
  15. 【ケーススタディ】パナソニックがカンパニー制から持株会社制へ移行したのはなぜですか?

「カンパニー制」とは、簡単に言うとどのような制度ですか?

カンパニー制とは、法的には一つの企業でありながら、社内の各事業部門をあたかも独立した「会社(カンパニー)」のように位置づけ、それぞれに大幅な権限と責任を与えて運営する組織形態です 。各カンパニーには、社長にあたる責任者(カンパニープレジデントなどと呼ばれる)が置かれ、そのカンパニーの事業運営に関する重要な意思決定を自己の裁量で行います 。  

この制度は、日本では1994年にソニーが初めて導入したことで知られています 。当時、独占禁止法によって持株会社の設立が原則として禁止されていた背景もあり、大企業が事業の多角化を進める中で、各事業の自律性と機動性を高めるための有効な代替案として注目され、その後、総合商社やメーカー、銀行など多くの大企業に広がりました 。カンパニー制は、巨大化した組織の官僚化を防ぎ、市場の変化に迅速に対応するための組織改革の手法として誕生したと言えます。

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カンパニー制は、権限や会計の独立性において、具体的にどのように運営されるのですか?

カンパニー制の核心は、その大幅な「権限委譲」と厳格な「独立採算制」にあります。これらが名ばかりのものでなく、実質的に機能しているかどうかが、その企業のカンパニー制の成熟度を測る指標となります。

権限(権限委譲)
カンパニー制における権限委譲は、単なる業務遂行の自由度にとどまりません。多くの場合、カンパニーの責任者には、事業戦略の策定、予算管理、設備投資の意思決定、さらには採用や人員配置に関する「人事権」までが付与されます 。これにより、各カンパニーは市場環境や顧客ニーズの変化に対して、本社の承認を待つことなく、迅速かつ柔軟に対応することが可能になります 。  

会計(独立採算制)
独立採算制は、カンパニー制を支える最も重要な仕組みです。各カンパニーは、自身の事業活動から生じる売上、費用、利益を管理する「損益計算書(P&L)」を持つだけでなく、多くの場合、事業に投下された資産や負債を管理する「貸借対照表(B/S)」まで作成・管理する責任を負います 。これは、単に利益を出すだけでなく、割り当てられた資本や資産をいかに効率的に活用してリターンを生み出したか(資本効率)まで問われることを意味します 。これにより、各カンパニーの業績が明確に可視化され、成果に対する責任の所在が極めて明確になります 。  

法的地位
これらの独立性にもかかわらず、法的にはすべてのカンパニーは同一法人内に存在する一部門です 。法的に独立した子会社ではないため、対外的な契約や法務、最終的な納税などは、企業全体として行われます。この「社内における擬似的な分社」という点が、カンパニー制の最大の特徴です 。

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大企業がカンパニー制を導入する主な戦略的理由は何ですか?

企業がカンパニー制という組織形態を選択するには、明確な戦略的意図があります。主に以下の3つの目的が挙げられます。

1. 意思決定の迅速化と市場対応力の強化
巨大組織では、現場から経営トップまでの階層が多くなり、意思決定に時間がかかる「大企業病」に陥りがちです。カンパニー制は、市場に最も近い現場のカンパニーに権限を大幅に委譲することで、このボトルネックを解消します 。市場や顧客ニーズの変化に対し、カンパニー単位で迅速に経営判断を下せるようにすることで、競争優位性を確保することが最大の狙いです 。  

2. 責任の明確化と業績向上への圧力
独立採算制により、各カンパニーの業績は誰の目にも明らかになります 。好調な事業と不振な事業が一目瞭然となるため、カンパニーの責任者は結果に対する強い責任感を持ちます。業績が悪化した場合、その責任を本社や他部門に転嫁することは困難であり、自らの手で事業を立て直すという強いプレッシャーとインセンティブが働きます 。  

3. 次世代経営者の育成
カンパニーの責任者は、一つの会社を経営するのと同様の経験を積むことになります。事業戦略の立案から、ヒト・モノ・カネといった経営資源の配分、投資判断まで、まさに「ミニCEO」としての役割を担います 。これにより、企業全体の将来を担う経営幹部候補を、実践を通じて計画的に育成する「経営者育成機関」としての機能が期待されます 。  

本質的に、カンパニー制は単一の法人の枠組みの中で、市場経済のメカニズムを擬似的に再現する試みと言えます。権限委譲と独立採算制を通じて、各事業部門に市場からの圧力やインセンティブを直接作用させ、官僚的になりがちな大企業内部に、起業家精神と高いパフォーマンスを求める文化を根付かせることが、その究極の目的です。

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「カンパニー制」と「事業部制」の決定的な違いは何ですか?

カンパニー制と事業部制の最も本質的な違いは、「権限委譲の範囲」と「会計上の独立性の度合い」にあります 。多くの場合、カンパニー制は事業部制をさらに発展させ、より自律性を高めた形態として位置づけられます 。  

権限の範囲
事業部制では、各事業部は製品やサービスに関する利益責任(P&L責任)を負いますが、大規模な投資判断や人事権(採用、評価、報酬体系の決定など)といった経営の根幹に関わる権限は、本社機能が保持するのが一般的です 。一方、カンパニー制では、これらの重要な経営権限までもが各カンパニーに大幅に委譲されます 。  

会計上の独立性
事業部制は、企業全体の会計システムの中の「プロフィットセンター(利益責任単位)」として扱われます。これに対し、カンパニー制は、P&Lに加えて貸借対照表(B/S)まで管理する「インベストメントセンター(投資責任単位)」として扱われることが多く、投下資本に対するリターン(ROI)まで厳しく問われます 。  

この違いは、転職希望者が企業の組織の実態を見抜くための重要な視点となります。例えば、企業が「事業部制」と説明していても、その事業部長に投資権限や独自の採用枠が与えられている場合、実質的にはカンパニー制に近い運営がなされていると判断できます。逆に「カンパニー制」を標榜していても、重要な意思決定に常に本社の承認が必要であれば、その実態は事業部制に近いかもしれません。肩書きだけでなく、権限の実態を見極めることが肝要です。

カンパニー制 vs. 事業部制 比較分析

特徴 事業部制 カンパニー制
法的地位

同一法人内の一部門

同一法人内の一部門

主な責任範囲

主に利益責任(P&L)

利益責任(P&L)および資産効率責任(B/S)

投資の意思決定権

原則として本社が保有

原則としてカンパニーが保有(一定額まで)

人事権(採用・評価等)

原則として本社が保有

カンパニーに大幅に委譲されることが多い

会計上の扱い

部門別採算制(プロフィットセンター)

独立採算制(インベストメントセンター)

リーダー育成の焦点

事業を率いる「事業責任者」の育成

将来の全社経営を担う「経営者」の育成

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「カンパニー制」と「持株会社(ホールディングス)制」はどう違うのですか?

カンパニー制と持株会社制の最も根本的な違いは、「法的地位」にあります 。カンパニー制が同一法人内での「擬似的な分社化」であるのに対し、持株会社制は事業部門を法的に独立した「子会社」として分社化する制度です 。

ガバナンスと説明責任
持株会社制における子会社は、それぞれが独立した法人格を持つため、独自の取締役会を設置することができ、親会社(持株会社)に対して株主として責任を負います。また、上場子会社であれば、外部の株主や市場全体に対する説明責任も生じます。一方、社内カンパニーはあくまで社内組織であり、その業績評価や説明責任は社内の経営陣に対してのみ負います。決算情報も通常は外部に公開されません 。

戦略的柔軟性
持株会社制は、事業ごとのM&Aや事業売却、外部資本の導入、株式上場(IPO)といった資本政策を柔軟に行うことができます 。各事業の特性に合わせた最適な資本構成やアライアンス戦略を取りやすいのが特徴です。カンパニー制では、これら資本に関わる戦略は企業全体として行う必要があります。

この違いは、特に経営層を目指すキャリア志向の強い人材にとって重要です。持株会社の子会社のトップは、法的に独立した企業のCEOであり、真の経営責任者としての経験を積むことができます。一方、社内カンパニーのトップも強力な権限を持つリーダーですが、そのキャリアパスやガバナンスは、あくまで親会社という単一の法人の枠組みの中に存在します。

カンパニー制 vs. 持株会社制 比較分析

特徴 持株会社制 カンパニー制
法的地位

別法人(子会社)

同一法人(社内分社)

ガバナンス構造

各子会社に取締役会が存在。親会社が株主として支配

本社の経営会議等が最高意思決定機関

外部への説明責任

あり(特に上場子会社の場合)

原則なし(企業全体の決算として開示)

資本構成

子会社ごとに独立した資本政策が可能

企業全体で統一

M&A・事業売却

子会社単位での売却や統合が容易

企業全体の事業譲渡として実施

人事・制度

子会社ごとに独自の人事・報酬制度の設計が可能

全社で統一的な制度が基本(一部裁量あり)

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どのような状況で、どの組織構造が最も適していると判断できますか?

組織構造の選択は、企業の戦略、事業の特性、そして目指す企業文化によって決まります。絶対的な正解はなく、それぞれに最適な状況が存在します。

カンパニー制が適している場合
複数の事業を展開しているが、企業ブランドの統一性、共有技術基盤、あるいは許認可などの理由から、法的に一つの会社であることが望ましい場合に適しています 。各事業に起業家精神を根付かせ、迅速な経営を促したいが、完全な分社化には踏み切れない、あるいはその必要がない大企業にとって有効な選択肢です。

持株会社制が適している場合
各事業の関連性が低い、あるいは事業ごとに全く異なる戦略、資本構成、パートナーシップが必要な場合に最適です 。親会社がポートフォリオマネージャーとして投資・管理に徹し、各事業の価値最大化を目指す場合に強力な武器となります。また、既に複数の関連会社が存在するグループを、一つの戦略思想の下に束ねる際にも有効です。

事業部制が適している場合
事業間の連携や共有リソース(研究開発、生産技術、販売網など)の活用が成功の鍵となる場合に適しています。強力な本社機能による中央集権的なコントロールを維持しつつ、製品や市場ごとの管理を行いたい場合に選択されます。

これらの組織形態は、中央集権から地方分権への「連続体(スペクトラム)」として捉えることができます。事業部制が最も中央集権的であり、持株会社制が最も分権的、そしてカンパニー制はその中間に位置します。企業がどの段階にあるかを理解することは、その企業の組織文化や戦略の方向性を予測する上で非常に重要です。パナソニックのように、事業部制からカンパニー制へ、そして最終的に持株会社制へと移行する企業があるのは、事業の多角化と戦略の進化に伴い、この連続体の上を移動している証左と言えるでしょう 。

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従業員の視点から見て、カンパニー制の組織で働くことの最も大きなメリットは何ですか?

従業員、特に成長意欲の高い人材にとって、カンパニー制は魅力的な環境を提供します。

成長機会の豊富さとスピード感
比較的小規模でミッションが明確な組織で働くことができます。本社から遠く、意思決定が速い環境は、若手であっても大きな責任を伴う仕事を任される機会を増やします 。カンパニーの業績に直接貢献しているという実感は、強いやりがいにつながります。特に、カンパニーの経営企画や責任者クラスのポジションは、経営スキルを実践的に磨く絶好の機会であり、キャリアを大きく加速させる可能性があります 。  

責任と成果の明確化によるモチベーション向上
独立採算制により、自らの働きがカンパニーの業績にどう結びついているかが明確にわかります 。成功はチームや個人の功績として認識されやすく、強い当事者意識(オーナーシップ)と組織への帰属意識を育みます 。  

起業家精神の醸成
大企業の安定した基盤の上で、あたかもベンチャー企業のようにスピード感を持って事業を推進する経験ができます 。これは、将来的に起業を考えている人材や、自律的に仕事を進めたいと考える人材にとって、非常に刺激的な環境と言えるでしょう。

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転職希望者が注意すべき、カンパニー制の潜在的なデメリットやリスクは何ですか?

カンパニー制のメリットは、裏を返せばデメリットにもなり得ます。転職活動においては、これらのリスクを事前に見極めることが重要です。

セクショナリズムとシナジーの欠如
各カンパニーが自社のP&Lを最大化することに集中するあまり、他のカンパニーとの連携や協力を怠る「サイロ化」が深刻な問題となることがあります 。情報、技術、人材の共有が進まず、企業全体として得られるはずの相乗効果(シナジー)が失われるリスクは常に存在します 。これは、部門横断的なキャリア形成を望む人材にとっては大きな障壁となり得ます。

短期的な成果至上主義とガバナンスの問題
業績に対する強いプレッシャーは、時に短期的な利益追求に偏らせ、長期的な視点での投資や人材育成を疎かにする原因となります 。最悪の場合、意図的に権限委譲されたカンパニーの独立性が、本社からの監視を弱め、業績の悪化を隠蔽したり、不正会計を行ったりするなどのコンプライアンス上のリスクを高める可能性も指摘されています 。

管理部門の重複によるコスト増大
各カンパニーが独自に人事、経理、総務といった管理機能を持つと、企業全体で見たときに機能が重複し、非効率やコスト増大につながります 。こうした非効率性は、景気後退期などにおけるリストラクチャリングの対象となりやすい側面も持ち合わせています。

カンパニー制が成功するか否かは、その根底にある「自律性(Autonomy)」と「全体最適(Alignment)」という二つの相反する力のバランスを、企業がいかに巧みにマネジメントできるかにかかっています。権限委譲という自律性を促す仕組みが、そのままセクショナリズムというリスクを生み出すのです。したがって、転職希望者が問うべきは「カンパニー制を採用しているか」ではなく、「この会社は自律性と全体最適の緊張関係をどう管理しているか」という、より本質的な問いになります。

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カンパニー制の組織で働くことは、長期的なキャリアパスにどう影響しますか?(専門家 vs. ゼネラリスト)

カンパニー制は、個人のキャリア形成に独特の影響を与えます。専門性を深める道と、ゼネラリストを目指す道で、それぞれ異なる機会と課題が生じます。

専門家(スペシャリスト)としての深化
カンパニー制は、特定の事業領域における深い専門知識と経験を培うのに非常に適した環境です。一つのカンパニーに所属し続けることで、その市場、製品、顧客、競合に関する第一人者となることができます 。その分野でのプロフェッショナルとしてキャリアを築きたいと考える人材にとっては、理想的な環境と言えるでしょう。  

ゼネラリストとしての挑戦
業績に対する強いプレッシャーは、時に短期的な利益追求に偏らせ、長期的な視点での投資や人材育成を疎かにする原因となります 。最悪の場合、意図的に権限委譲されたカンパニーの独立性が、本社からの監視を弱め、業績の悪化を隠蔽したり、不正会計を行ったりするなどのコンプライアンス上のリスクを高める可能性も指摘されています 。

「カンパニー経営者」という独自のキャリア
一方で、企業全体を俯瞰するゼネラリストとしてのキャリアパスは、描きにくい場合があります。カンパニー間の壁は厚くなりがちで、あるカンパニーで培ったスキルや人脈が、他のカンパニーでは直接通用しないこともあります 。カンパニー間の異動は、社内でありながら「転職」に近いエネルギーを要する場合があり、意識的に多様な経験を積む努力が求められます。  

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カンパニー制における業績評価や処遇は、一般的にどのように扱われますか?確認すべき点は何ですか?

カンパニー制における人事評価は、従業員のモチベーションを左右する極めて重要な要素であり、転職希望者が最も注意深く確認すべき点の一つです。

公平性の課題
最大のリスクは、カンパニーごとに評価基準や報酬水準がバラバラになり、従業員間に不公平感が生じることです 。例えば、成長市場にいるカンパニーと、成熟市場や赤字事業を抱えるカンパニーとで、同じ成果を出しても評価やボーナスが大きく異なるという事態が発生すれば、従業員の士気は著しく低下します 。  

望ましい制度設計
多くの先進的な企業では、このリスクを回避するために、強力な本社人事部門が企業全体で統一された評価の枠組み、等級制度、給与テーブルなどを設定しています 。その上で、賞与などのインセンティブ部分に各カンパニーの業績を反映させるという、公平性と成果主義を両立させる仕組みを構築しています 。  

面接で確認すべきこと
転職希望者は、面接の場でこの点を具体的に質問すべきです。「業績評価は、全社共通の基準とカンパニー独自の基準が、どのような割合で構成されていますか?」あるいは「非常に収益性の高いカンパニーの従業員と、現在投資フェーズにあるカンパニーの従業員の評価は、どのように公平性が保たれているのでしょうか?」といった質問は、その企業の人事思想の成熟度を測る良い試金石となります。

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同じ企業内で、カンパニー間の異動やキャリアチェンジの機会は現実的に期待できますか?

カンパニー間の異動のしやすさは、その企業の文化や制度がセクショナリズムの弊害をどれだけ克服できているかを示すバロメーターです。

異動の難しさ
前述の通り、サイロ化が進んだ組織では、カンパニー間の異動は容易ではありません 。各カンパニーは優秀な人材を「自社の資産」と捉え、放出に消極的になる傾向があります。  

異動を促進する仕組み
一方で、多くの企業はこの問題を認識しており、意図的に人材の流動性を高めるための制度を導入しています。例えば、社内の空きポジションを全社に公開し、従業員が自らの意思で応募できる「社内公募制度(オープンジョブポスティング)」がその代表例です 。このような制度の有無、そしてそれが実際にどの程度機能しているかは、風通しの良い企業文化であるかを見極める重要な指標となります。  

楽天の「Open Job-posting Initiative (OJI)」制度では、エンジニアは勤続1年以上で他部門のポジションに応募可能であり、社内でのキャリアチェンジを積極的に支援しています 。また、株式会社メンバーズの「キャリアアップデート制度」では、本人の異動の意思が尊重され、現上長に拒否権がないとされており、従業員の主体的なキャリア形成を強く後押ししています 。

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面接で、その企業のカンパニー制の実態を見極めるために、どのような具体的な質問をすべきですか?

組織図に書かれていることが、必ずしも現場の実態を反映しているとは限りません。以下の質問は、企業の「建前」の裏にある「本音」を引き出すための有効なツールです。

シナジー vs. サイロ化を見極める質問
「最近、複数のカンパニーが連携して進められたプロジェクトの具体例を教えていただけますか?そのプロジェクトは、どのような経緯で始まり、どのようにマネジメントされたのでしょうか?」
(→連携の実態と、それを可能にする仕組みの有無を探る)

ガバナンスの実態を見極める質問
「本社は、各カンパニーに大幅な自主性を与えることと、グループ全体の戦略的な方向性を維持し、コンプライアンスを確保することのバランスを、どのように取っているのでしょうか?」
(→自律性と全体最適の緊張関係をどう管理しているか、その思想を探る)

キャリアパスの可能性を見極める質問
「従業員が異なるカンパニーへ異動する機会は、制度として、また実態としてどの程度あるのでしょうか?実際にそうした異動を成功させた方の例があれば、お聞かせいただけますか?」
(→社内公募制度などが形骸化していないか、人材の流動性の実態を探る)

評価の公平性を見極める質問
「私の業績は、どのような要素で評価されるのでしょうか?個人やチームの貢献、所属カンパニーの業績、そして会社全体の業績の割合は、どのようになっていますか?」
(→評価哲学と、公平性を担保する仕組みの有無を探る)

これらの質問に対する回答から、その企業のカンパニー制が持つ「光」と「影」のどちらの側面が強いのか、そしてそれが自身のキャリアにとってプラスに働くのかマイナスに働くのかを、より深く、具体的に判断することができるはずです。

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【ケーススタディ】トヨタ自動車、みずほフィナンシャルグループ、楽天グループは、カンパニー制をどのように活用していますか?

これらの企業は、それぞれ異なる戦略的目的のためにカンパニー制を導入・活用しており、その違いは非常に示唆に富んでいます。

トヨタ自動車:戦略に応じて組織を進化させる
トヨタは2016年に、意思決定の迅速化と経営人材の育成を目的として7つのカンパニーを軸とする体制を導入しました 。しかし、彼らの組織構造は固定化されていません。2023年には、「クルマ屋ならではの次世代BEV」開発を加速させるために「BEVファクトリー」を新設し、さらにソフトウェア開発を最優先課題とする「ソフトウェアファースト」への変革を掲げ、従来の「コネクティッドカンパニー」を廃止して「デジタルソフト開発センター」を設立しました 。これは、「組織は戦略に従う」という原則を体現しており、戦略的な優先順位の変化に応じて、組織構造を大胆に組み替えるダイナミズムを示しています。  

みずほフィナンシャルグループ:顧客軸での収益責任を明確化
みずほFGは、従来の機能別の組織体制を再編し、「リテール・事業法人カンパニー」や「大企業・金融・公共法人カンパニー」など、顧客セグメントに基づいた5つのカンパニー制を導入しました 。この目的は、顧客基点でのアプローチ(マーケット・イン)を徹底し、顧客グループごとの収益性を明確にすることで、責任の所在を明らかにすることにあります 。銀行・信託・証券にまたがるグループ全体の総合力を、顧客軸で結集させるための戦略的な組織再編です。同時に、グループ共通の人事制度を導入し、カンパニー間の公平性や人材交流にも配慮しています 。  

楽天グループ:多角化事業を管理するエコシステム経営
楽天は、Eコマース、フィンテック、モバイル通信、スポーツなど、多岐にわたる事業ポートフォリオを管理するためにカンパニー制を効果的に活用しています 。各カンパニーがそれぞれの事業領域で機動的にビジネスを展開しつつ、「楽天エコシステム」という大きな枠組みの中で連携し、グループ全体の価値を最大化することを目指しています 。巨大で多様な事業群を、それぞれの専門性とスピード感を損なうことなく統治するための現実的な解がカンパニー制であると言えます。

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【ケーススタディ】日本で最初にカンパニー制を導入したソニーが、最終的にそれを廃止したのはなぜですか?この事例から何を学べますか?

ソニーの事例は、カンパニー制が万能薬ではないことを示す最も重要な教訓です。

廃止の理由
ソニーは1994年にカンパニー制を導入し、一時は業績回復を遂げましたが、2005年に廃止しました 。最大の理由は、同社の中核事業であるエレクトロニクス事業の各部門が、製品レベルで非常に強く連携・依存し合っていた点にあります 。例えば、デジタルカメラ、テレビ、パソコン、オーディオ機器は、それぞれが連携することで顧客に新しい価値を提供する製品群です。これらを無理に独立したカンパニーとして切り分け、EVA(経済的付加価値)のような個別の業績評価指標を導入した結果、カンパニー間の協力よりも競争が優先され、製品間の連携を阻害する「サイロ化」が深刻化しました。シナジーを創出するどころか、破壊する結果を招いてしまったのです 。

教訓
この事例から学べるのは、「組織構造は事業の性質に適合しなければならない」という原則です。事業部門間の連携や統合が価値創造の源泉であるビジネスモデルにおいて、各部門を分断するカンパニー制は、機能不全に陥るリスクが高いと言えます。カンパニー制は、事業単位がある程度独立して完結している場合に、より効果的に機能する組織形態なのです。

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【ケーススタディ】パナソニックがカンパニー制から持株会社制へ移行したのはなぜですか?

パナソニックの移行は、カンパニー制の限界と、企業の成長段階に応じた組織形態の進化を示す好例です。

移行の理由
パナソニックは長年カンパニー制(およびそれに類する事業部制)を運用してきましたが、2022年に持株会社制へ移行しました 。その背景には、家電、住宅設備、車載部品、B2Bソリューションなど、事業領域が極めて広範かつ多様化したことがあります。これにより、単一の経営トップが、グループ全体のポートフォリオ戦略と、それぞれ全く異なる市場環境に置かれた個別事業の戦略の両方に深く関与し、最適な意思決定を下すことが困難になっていました 。カンパニー制は「擬似的な持株会社」として機能していましたが 、各事業がより高い独立性と専門性を持って競争力を磨き上げるためには、法的に独立した事業会社となる「本物の持株会社制」が必要だと判断したのです 。

教訓
この事例は、カンパニー制が持株会社制への「移行段階」として有効に機能し得ることを示唆しています。まずカンパニー制を導入して社内に分権的な経営文化を醸成し、各事業の独立採算管理のノウハウを蓄積した上で、次のステップとして完全な法的分離に踏み切る、という組織進化のプロセスが見て取れます。

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